文明の衝突と21世紀の日本
- 作者: サミュエル・P.ハンチントン,Samuel P. Huntington,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/01/18
- メディア: 新書
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サミュエル・ハンチントンの1998年〜1999年の講演と論文の抜粋からなっているので、全体に古さは否めないが、その先見性は素晴らしい。
主に説いているのは冷戦時代の世界と、その後に出現し始めている(した)世界の大きな相違である。
冷戦時代は政治やイデオロギーで、西側「自由世界」、共産圏、第三世界と二極体制+αだったのが、ソ連の衰退により一時期、アメリカの一極体制になるもその後、多極化体制でもなく一極でもない、「一極・多極化」体制へと変化していった。
そのキーワードとなるのが、文化ないし文明という要素によって国家の行動が決定される傾向が強まり、国家は主に主要な「文明」ごとにまとまっている。
すなわち、
西欧文明
イスラム文明
東方正教会文明
中華文明
などである。
「一極・多極化」システムとは、
第二レベルに位置するのが、世界の特定の地域は支配できるがアメリカのように世界的な影響力をふるえない地域大国
(独仏連合(EU)、ロシア、中国、日本(潜在的に)、インド、インドネシア、イラン、イスラエル、ナイジェリア、南アフリカ、ブラジル)
第三のレベルに位置するのが、ナンバーツーの地域大国。その影響力は第二レベルの地域大国よりも弱く、その権益はしばしば地域大国と対立する(イギリス、ウクライナ、日本、ベトナム、韓国、パキスタン、オーストラリア、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン)
そして第四レベルのその他の国である。
唯一の超大国であるアメリカは一極システムを好むのは当然であるし、それでなくともアメリカは独善的で傲慢に世界に対してふるまっているという。
アメリカの官僚は、きわめて自然に世界は一極システムで動いてるかのように考え、行動する傾向が明らかにある。
アメリカの美徳を鼻にかけ、自国を慈悲深い親切な支配者だと考えている。
またアメリカ人は、世界の問題は自分たちの問題だと考えているが、他の国々は自国で起こったことはアメリカの問題ではなく、自国の問題だであると考えている。
アメリカの覇権に関して、世界の国々はどっちつかずの見解を持っている。
特にアメリカと第二レベルの国々との関係、第二レベルの国々間での関係がより対立的になっており、その関係でアメリカと第三レベルの国々との関係がより有効的なものになるかもしれない。
たとえば、中国に対する日本、日本に対する韓国の関係上、アメリカと日本、韓国との友好関係は続くものと考えられる。
問題は日本である。
日本をどう見てるかというと、「文化および文明的観点から見た孤立国家」というのだ。
例えば、アメリカとイギリス、オーストラリア、カナダ、もしくはスカンジナビア諸国やEUの中核諸国、ラテンアメリカ、アラブ諸国などがそうなのだが、共通の文化を分け合っているので、高いレベルで信頼し合い親交を深め、より協力して助け合う。
その意味で日本はどの「文化的共同体」の一員ではない。
第二に、最初に近代化に成功した非西欧国であるにもかかわらず、「西欧化」しなかった点にあるという。
基本的な価値観、生活様式、人間関係、行動様式においてまさに非西欧的なものを維持し、これからもおそらく持ち続けるであろうと言ってる。
思うにこれは、宗教的な価値観、生活様式、人間関係、行動様式が希薄なのだということではないか?
第三に、日本の近代化には特徴がある。「革命」的大激動を経験せずに成し遂げられたということである。
内戦回避という徳川慶喜の大英断による江戸城会場とその後の明治維新(どちらにしても武士が引き起こした)、第二次世界大戦後は米軍による占領と再生(天皇は象徴として残されたし)いう、下からではなく上から与えられた改革によるのである。
第四に、他国と文化的に繋がってないことから、日本には難題が降りかかっても誰も真剣には助けてくれないだろうということである。
思うにこれも宗教的なつながりもあるのではないか?
日本人は戦後なのかもしれないが、宗教というものを軽んじる傾向があり、それが文化的のような気でいる。
世界を見ると全く反対なのであるが…
さらに、近代化の段階で行ったいわゆる戦略戦争の代償も大きい。
ハンチントンは、日本は他の社会に対して家族的な義理も持ってなければ、アメリカも含めて他の社会も日本に対して義理を追ってないのであるという。
第五に
今後の主要な分裂線は、西欧とイスラム、および中国の間で引かれると予測される。
その時間に入って揺れるのが、日本、ロシア、インドであるとハンチントンは言う。
現在のところ日本は、おおむねアメリカと西欧に与してきた。
ただ、この後この状況が続くであろうか?中国の経済発展が続けば、政治的影響力と軍事力も成長を続けるだろう。
アメリカと文化的なつながりを持たないために、具体的な国家的権益が生じるとなれば、日本は他に気兼ねすることなく中国に好意的反応を示すだろう。
とあるが、二点で疑問である。
第一点。日本人の西欧、特にアメリカ文化への憧憬は尋常ではない。
アメリカ側に義理はなくとも、日本側には切りがたい憧れを植え付けられてしまっている。
そのために日本の歴史や文化を恥ずかしいものという若者が大半である。
第二点。もし中国にアメリカ以上の好意を示すとしたら、尖閣諸島問題をはじめ、一方的な戦争謝罪問題までも飲みこまねばならない。
はたしてできるのか?
大戦を通じて敵対してきたドイツとフランスはそのご協力的関係を築きあげ、西欧にリーダーシップと安定と豊かさがもたらされた。
そのような関係が果たして築かれるのか?
中国には寛容が、日本には歩み寄りが、アメリカには後押しが必要となるであろう。
東アジアの将来の平和と幸福は、日本と中国がともに行き、ともに進む道を見つけること事にかかっているという。